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連載「AIと一緒にできる認知行動療法セルフケア」第1回(全4回)

はじめに

診察は2週間に一度でも、気分が動くのは毎日です。夜になると考えが止まらない。嫌な場面が何度も浮かぶ。次の診察で何を話せばよいか分からない——。

そんなとき、まとまっていないままスマホに話すと、AI(ChatGPTなどの対話型AI)が内容を整理して返してくれます。この記事では、コピーしてすぐ使える三つのプロンプト(AIへの指示文)を紹介します。文章を打つ必要はありません。

  • つらかった出来事を整理したい方はプロンプト1
  • この数日の調子をふり返りたい方はプロンプト2
  • 次の診察で話すことをまとめたい方はプロンプト3

これは治療ではなく、認知行動療法の考え方を借りて、診察と診察のあいだに自分の状態を整理するための補助です。まずは、今の目的に近いものを一つ選んでください。

使う前の約束事

この連載のどの回のプロンプトにも共通する約束です。

  • 次のようなときは使いません。 消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけそうな考えがあるとき。現実のことかどうか判断しにくい体験があるとき。ほとんど眠っていないのに、気分や活動ばかりが高まっているとき。つらい場面がよみがえって、今起きているように感じるとき。お酒を飲んでいるとき。
  • 上のようなつらさが出ているときの行き先は、AIではなく主治医・当院です。 命に関わる切迫した状況では救急(119番)を利用してください。
  • やってみてつらさが増したら、そこでやめます。 つらさが増したことは、次の診察でお話しください。
  • AIとの会話は当院や主治医には伝わりません。 AIは治療者でも、緊急時の連絡先でもありません。危険を察知して当院や救急へ連絡することもありません。
  • 個人を特定できる情報は入力しません。 氏名や住所、勤務先・学校名、相手が誰か分かる細かな事情は、「上司A」「会社X」のように置き換えてください。
  • AIに判断を求めません。 AIの答えは間違うことがあります。診断や薬のこと、休職をどうするかは、AIではなく主治医と決めてください。受診するかどうかも、AIの答えでは決めないでください。
  • 18歳以上の方に向けた内容です。 当院の診療対象と同じです。

プロンプト1:つらかった出来事を、話すだけで整理する

使い方は、スマホのAIアプリを開き、下のプロンプトをコピーして貼り付け、送信。あとはマイクのボタンを押して、独り言のように話すだけです(マイクの位置が分からなければ、文字入力でも同じように使えます)。「今日、職場で嫌なことがあって……」くらいの話し出しで構いません。とりとめがなくても、途中で言い直しても大丈夫です。散らかったまま渡して、片づけてもらいます。

🎤 音声で話すだけ
今から、最近あったつらかった出来事について、思いつくまま話します。とりとめがなくても、話が前後しても、言い直しても、そのまま聞いてください。私が「以上です」と言うまでは、短い相づちだけにしてください。話し終わったら、次の4つに分けて整理し、「こういう整理で合っていますか」と私に確認してください。
(1) あった出来事(事実だけ)
(2) その瞬間、頭をよぎった考え
(3) そのときの気分(一言ずつ)
(4) 体に起きたこと
守ってほしいこと: 整理と確認だけをしてください。考えが正しいか間違っているかの判定、診断や原因の推測、アドバイスや励ましはしないでください。足りないところは質問してもらって構いませんが、質問は1回に1つ、全部で5つまでにして、10分ほどで終わらせてください。私はいつでも途中でやめて構いません。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。話の途中でも、もし私の話に、消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけたくなるような深刻な内容が出てきたら、それ以上は深掘りせず、次の診察を待たずに主治医に連絡するよう、命に関わる切迫した状況なら救急(119番)を利用するよう私に勧めて、この作業を終えてください。

たとえば、「会議で意見を言ったら、上司が短く返事をした。変なことを言ったと思われた気がして、そのあとずっと落ち着かなかった」と話した場合、返ってくる整理はこんな形です。

  • 出来事: 会議で意見を言い、上司が短く返事をした
  • 浮かんだ考え: 変なことを言ったと思われたかもしれない
  • 気分: 不安、恥ずかしさ
  • 体の反応: 胸が詰まる感じ、落ち着かなさ

実感と違えば、「考えはそれじゃなくて、怒らせたと思った」と言い直せば直してくれます。整理して、眺める。この記事で目指すのはそこまでです。 「上司が短く返事をした」は事実で、「変なことを言ったと思われた」は推測——分けて並べると、その二つが別のものだったことに気づけます。浮かんだ考えをどう検討していくかは、連載の先の回で扱います。

整理した結果は保存しなくても構いません。その場で一度眺めれば十分です。

プロンプト2:この数日をふり返る——できなかったことだけが今週ではありません

気分が沈んでいる時期には、悪かったことばかりが目にとまり、少しでもましだった時間や、こなせていたことは視界から抜け落ちやすくなります。一週間を、良かった探しではなく事実の棚卸しとしてふり返るためのプロンプトです。

🎤 音声で話すだけ
今週(この数日)のことを、思い出せる順に話します。まとまっていなくても、言い直しても、そのまま聞いてください。私が「以上です」と言うまでは、短い相づちだけにしてください。話し終わったら、次の3つに整理して見せ、「こういう整理で合っていますか」と私に確認してください。
(1) 今週やっていたこと(小さなことも含めて)
(2) 気分が少しでも軽かった・ましだった場面
(3) 気分が重かった場面
守ってほしいこと: 私が話した事実だけで整理し、話していないことを推測で足さないでください。評価や採点、「もっとこうすべき」という助言はしないでください。(2)が見つからなければ、無理に作らず「今回は見つかりませんでした」でいいです。質問は1回に1つ、全部で5つまで、10分ほどで終えてください。私はいつでも途中でやめて構いません。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。話の途中でも、もし私の話に、消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけたくなるような深刻な内容が出てきたら、それ以上は深掘りせず、次の診察を待たずに主治医に連絡するよう、命に関わる切迫した状況なら救急(119番)を利用するよう私に勧めて、この作業を終えてください。

話し始めは、月曜から順に思い出しても、印象に残った日だけでも構いません。返ってくる整理はこんな形です。

  • やっていたこと: 出勤4日、金曜は休んだ。土曜に洗濯と買い出し
  • ましだった場面: 水曜の昼、外に出て昼食をとったとき
  • 重かった場面: 日曜の夜、月曜のことを考え始めたとき

ここでも答えは出しません。週に一度、決まった曜日にやってみるのがおすすめです。数週間ぶんたまると、「重かった場面」に同じ顔ぶれ——たとえば「会議の前の晩」「日曜の夕方」——が並んでいるのが見えてくることがあります。同じ場面が重なっていたら、次の診察で伝える材料になります。

あとで見返したい場合は、日付を添えて、整理された三項目だけをメモやスクリーンショットで残してください。

プロンプト3:次の診察で話すことを、まとめておく

診察の時間は短く、いざ座ると、話そうと思っていたことが飛んでしまう——珍しいことではありません。診察前の準備の考え方は診察をうまく活用するための準備にまとめてあり、このプロンプトは、その準備を話すだけでできるようにしたものです。

🎤 音声で話すだけ
次の診察で主治医に伝えたいことを整理したいです。今から近況を話します。とりとめがなくても、言い直しても、そのまま聞いてください。私が「以上です」と言うまでは、短い相づちだけにしてください。話し終わったら(この会話でこれまでに整理した内容があれば、それも使って)、次の4つの短いメモにまとめ、「これで合っていますか」と私に確認してください。
(1) いちばん困っていること(一言で)
(2) それがいつから・どんな場面で起きているか
(3) 眠り・食事・体の変化
(4) 主治医に伝えたいこと・相談したいこと
守ってほしいこと: 診察で30秒くらいで伝えられる長さにしてください。私が話していないことを足さないでください。病名の推測や、薬についての意見は書かないでください。足りないところの質問は1回に1つ、全部で5つまでにして、10分ほどで終わらせてください。私はいつでも途中でやめて構いません。氏名・住所・勤務先や学校の名前などが出たら「上司A」「会社X」のように置き換えてください。話の途中でも、もし私の話に、消えてしまいたい気持ちや、自分や誰かを傷つけたくなるような深刻な内容が出てきたら、それ以上の質問はやめ、メモの先頭に「まずこのことを主治医に伝える」と書いたうえで、次の診察を待たずに主治医に連絡するよう、命に関わる切迫した状況なら救急(119番)を利用するよう私に勧めて、この作業を終えてください。

できあがるメモのイメージは、この4行です。

困っていること: 朝、仕事に出る支度が進まない いつから・どこで: 3週間前から、とくに月曜と会議のある日 体の変化: 寝つきが悪い。朝食を抜く日が増えた 伝えたいこと・相談したいこと: 月曜の朝だけでも動けるようにする方法を相談したい

このメモは、診察で読み上げても、スマホの画面のまま見せても構いません。きれいにまとまっていなくても、伝えたいことの見出しが手元にあるだけで、短い診察の時間は使いやすくなります。

この方法の下敷き——認知行動療法について少しだけ

ここまでの三つのプロンプトは、認知行動療法(CBT)の考え方を下敷きにしています。説明は、ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド 第2版』の第1〜3章に沿っています。

認知行動療法は、根拠を確かめないまま、前向きな考えに置き換える方法ではありません。同じ出来事でも、そのとき浮かんだ考えによって、気分や体の反応、その後の行動が変わることがある——そう見立てたうえで、出来事と考えと反応を分け、浮かんだ考えが事実に照らしてどうか、自分の役に立っているかを確かめていきます。

原著が重視する点のうち、ここでは二つだけ取り上げます。一つは、確かめ方です。治療者が「正しい考え方」を教えるのではありません。本人と治療者が一緒に、その考えに合う事実と合わない事実を探し、話し合うだけでなく、実際に行動して試すこともします。治療者にも、その考えが当たっているかどうかは、調べてみるまで分からないからです。

もう一つは、面接の時間だけで終わらないことです。面接で話したことは日がたつと忘れやすいので、その人がいま取り組んでいる問題に合わせて、本人と相談して決めた課題を面接のあいだの日常で試し、次の面接で一緒にふり返ることが重視されています。

原著では、分けたあとに考えを確かめるところまで、治療者と一緒に進みます。この記事でAIに任せたのは、その手前の「分けて書き出す」ところと、日々のふり返りや診察前の整理の補助です。AIを補助役に使うのは原著の内容ではなく、当院からの提案です。

この連載の地図

全10回の予定です。順番に読む必要はなく、どの回も単独で使えます。第2回では、今回使った「出来事・考え・気分・体の反応」の分け方を、行動まで含めて詳しく扱います。

  1. 話すだけで始める気持ちの整理(この記事)
  2. 出来事・考え・気分を分ける——認知モデルという見方
  3. 勝手に浮かぶ考え(自動思考)に気づく
  4. 浮かんだ考えを、別の見方と並べてみる
  5. 気分が戻るのを待たずに、小さく動く(行動活性化)
  6. 自分の中の「〜すべき」のルールに気づく
  7. 「自分はダメだ」が消えないのはなぜか(中核信念)
  8. 問題を小分けにする・決めきれないときの整理
  9. 診察のあいだの毎日を、練習の場にする
  10. 調子を崩すサインを、自分の言葉でリスト化する

当院での実際

当院には心理士がおらず、心理士によるカウンセリングや、認知行動療法などの専門的な心理療法プログラムは提供していません。専門プログラムを希望される場合、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

AIを使わなくても、使うのが合わなくても、診察はこれまでどおり受けられます。このプロンプトは、使いたい方が使えるように用意したものです。

眠れない日が続く、食事の量や体重が変わってきた、気分が晴れない日が続く——そうした変化が出ているときは、AIでの整理を続けるより先に、受診をご検討ください。通院中の方は、次の診察を待たずに主治医へご相談ください。

まとめ

今日使えるのは三つです。

  1. つらかった出来事を、出来事・考え・気分・体の反応に分ける
  2. この数日をふり返り、重かった場面と少しましだった場面を並べる
  3. 次の診察で伝えたいことを、30秒のメモにする

AIの役目は、答えを決めることではなく、話した内容を整理することです。三つ全部を始める必要はありません。今いちばん使えそうなものを、一つだけ試してください。

関連する記事: 心理療法とは/CBTとIPTの違い/コラム法(紙に書き出す形の整理)/うつ病の非薬物療法


参考にした資料(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • ジュディス・S・ベック『認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで 第2版』(伊藤絵美・神村栄一・藤澤大介訳、星和書店、2015年)第1〜3章

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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