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はじめに

生理が始まれば楽になるはず、と自分に言い聞かせて数日を耐えた。ようやく生理が来て、頭痛もむくみも引きはじめた。それなのに、消えたい気持ちだけがまだ残っている——。この「生理が来ても引かない」という事実こそ、この記事でいちばん大事な手がかりになります。月経のある方の不調はカレンダーの上を動いていて、同じ「生理のつらさ」でも、排卵のあとに始まるのか、生理の直前がいちばん重いのか、生理が始まってからが本番なのかで、考えることは変わってくるからです。

PMS/PMDDの症状のチェックリストや受診の目安は、PMDDとは?PMSとの違いにまとまっています。この記事では、いつ始まり、いつ変わるのかという時間の軸で、症状を並べ直します。

月経周期のどこにいるかで、出るものが変わる

月経周期は、大きく二つに分かれます。月経が始まってから排卵までが「卵胞期」で、月経の期間もここに含まれます。排卵から次の月経までが「黄体期」です。PMS/PMDDの症状が現れるのは黄体期、つまり排卵のあとから月経までの時期です。月経が始まってからの腹痛が中心のときや、周期のどこにいても落ち込みが続くときは、別の系統を考えます。

まず、ひとまわり分を一枚に並べます。

時期 体に出ること 気持ちに出ること 「消えたい」という気持ち
排卵のあと(黄体期のはじめ) 乳房の張り、むくみ、眠気やだるさが少しずつ イライラ・涙もろさ・落ち込みが顔を出しはじめる 早い人では、この時期から兆しが出る
生理が始まる直前 頭痛・むくみ・過食・強い眠気やだるさが最も重くなる 怒り、不安、自責、感情の振れ幅が最も大きくなる 最も強まりやすい時期
生理のあいだ 生理前からの不調は数日で引いていく。入れ替わりに生理痛(下腹部痛・腰痛)が出る 典型的には数日かけて軽くなる 典型的には数日で和らいでいく
生理が終わったあと(卵胞期の後半) ほぼ消えるのが典型 安定した状態に戻るのが典型 ほぼ出なくなるのが典型

ここからは、時期ごとに中身を見ていきます。

排卵のあと──静かに始まる時期

「なぜか今週は調子が悪い」——その「今週」が実は毎回排卵のあとだった、ということは、日付を並べてはじめて見えてきます。次の生理はまだ半月も先なので、この時期の不調は月経と結びつけて考えにくく、見過ごされやすいのです。

体では、排卵を境に、乳房の張りや痛み、むくみ、強い眠気、だるさが少しずつ顔を出します。本人の感覚では「なんとなく重いかな」という程度でも、あとから記録を見返すと、始まりはこのあたりだったと分かることがあります。

気持ちの面では、イライラ、涙もろさ、落ち込み、集中のしにくさが、この頃から出はじめる人がいます。「生理前の1〜2週間がつらい」とよく言われますが、その入り口がここ、黄体期の始まりです。

始まり方には個人差があります。生理の数日前になってから出る人もいれば、排卵のあとから月経までの2週間近く不調が続く人もいます。始まりが早いことを理由に、「生理の直前ではないから違う」と自分で除外してしまう必要はありません。

「消えたい」という気持ちも、早い人ではこの時期から兆しはじめます。この時点では「疲れているだけかもしれない」と流されやすいのですが、毎周期おなじ時期に始まっているなら、それは周期に連動しているサインです。

生理が始まる直前──いちばん強まる時期

始まる時期は生理の数日前から2週間近く前までと幅がありますが、多くの人にとって、生理直前の数日がひとまわりの中でいちばん重い時期になります。

体では、頭痛、むくみ、過食、強い眠気やだるさが前面に出ます。乳房の張りも強まります。眠っても休んだ気がせず、朝から疲れているような感覚が続くこともあります。「生理前の頭痛」は、この時期の代表的な症状のひとつです。

気持ちの症状も、この数日でピークを迎えます。特徴的なのは、怒りの爆発と自己嫌悪が、同じ数日のうちに繰り返されることです。些細なことで怒りがあふれ、そのあとで激しく自分を責める——この繰り返しのせいで、この時期の記憶は「ひどいことをした自分」として残りやすく、それが次の周期を迎える不安の種にもなります。ふだんは感情をうまく扱えている人でも、この時期だけは崩れることがあります。それは、対処のしかたが下手だからではありません。

同じ人でも、周期によって重さは変わります。前の周期に強いストレスがかかっていた月は、次の月経前と月経中の症状が重くなりやすい、という調査があります。ひどさが月ごとに波打つと感じるときは、先月の出来事も振り返ってみると、波の理由が見えることがあります。この関係はストレスとPMS/PMDDの悪化の関係で詳しく扱っています。

そして、「消えたい」「死にたい」という気持ちが最も強まりやすいのも、この時期です。PMDDでは、こうした気持ちが生理前に繰り返し現れることが珍しくありません。珍しくないことと、軽いことは別です。

生理が始まってから──つらさが入れ替わる時期

典型的な経過では、月経が始まると数日のうちに、気持ちの症状が軽くなっていきます。生理前の頭痛やむくみも引いていきます。入れ替わりに出てくるのが、下腹部痛や腰痛、つまり生理痛です。これは生理「前」の症状とは時期も背景も違う、月経困難症と呼ばれる領域の症状です。

生理前の気分の波が引ききらないうちに生理痛が始まると、つらさが一続きに感じられます。本人の実感としては「排卵のあとから生理が終わるまで、ずっとつらい」になります。けれども中身を分けてみると、前半は気分と体の月経前症状、後半は生理痛と、別のものが続けて走っていることがあります。どこからどこまでが何なのかは、日付と症状を書き分けてはじめて見えてきます。

一方で、月経が始まっても気持ちの不調が引かない人がいます。そこから先の見分け方は、生理が終わったあとの経過と合わせて考えます。

生理が終わったあと──本来なら晴れている時期

PMDDだけであれば、月経が終わるころには症状はほぼ消え、生理が終わってから排卵までの卵胞期の後半は、調子のよい時期になります。「生理が終わると別人のように動ける」という落差の大きさそのものが、不調が周期に連動している手がかりでもあります。

ただし、気分の症状が引いたあとも、考え込み——同じ後悔や自責が頭の中を回り続けること——が数日尾を引くことがあります。これは気分そのものが残っているのとは別の面で、PMDDの典型的な経過の範囲で起こりえます。月経後の気分と考え込みがそれぞれいつ引いたかも、記録して医師に伝えてください。見分けの材料になります。

それに対して、落ち込みや不安そのものが生理が終わったあとも続いているなら、話が変わります。それは「生理前の不調」という枠には収まらない経過です。

調子が戻ると、生理前に「今度こそ病院に行こう」と思い詰めていた気持ちまで、一緒に消えてしまいます。次の周期でまた同じ波に飲まれ、また晴れて、また忘れる——という形で、受診が先送りになることがあります。晴れている時期こそ、予約を取ったり記録を整えたりという準備に向いた時期です。

月経が始まったあとどうなるかで、考えることが分かれる

生理前のつらさの経過は、月経が始まったあとの変化で、大きく四つに分かれます。

一つめ、月経が始まると数日で軽くなる。 PMS/PMDDの典型的な形です。症状が黄体期に集中し、月経後はほぼ消えます。症状の全体像とチェックリストはPMDDとは?PMSとの違いに、SSRI・低用量ピル・漢方薬といった治療の選択肢は薬での治療の選択肢を整理した記事にまとまっています。

二つめ、月経が始まっても、もとの不調が残る。 月経前増悪(PME)かもしれません。もともとのうつ病や不安症、双極性障害などが生理前に上乗せで悪化し、月経が始まると上乗せの分は引くけれど、土台の不調はそのまま残る形です。生理が来ても「すっきり元通り」にならないのが特徴で、治療の力点も変わってきます。詳しい見分け方は月経前増悪(PME)とPMS/PMDDの違いをご覧ください。

三つめ、月経中の痛みが中心のとき。 つらさの主役が下腹部痛や腰痛といった痛みなら月経困難症の側で、その治療はまず婦人科の守備範囲です。月経の始まるころに強まる頭痛なら、月経に関連した片頭痛のこともあります。診断の枠組みや、月経前の症状との時期の違いはPMS/PMDDの症状と治療で整理しています。

四つめ、周期と関係なく続いている。 不調の波が月経の日付と連動していないなら、うつ病や不安症、更年期など、周期以外の理由を考えます。とくに40代半ばを過ぎて、「前は生理が来れば戻れたのに、このごろは戻りきらない」という変わり方をしているなら、月経の周期じたいが揺らぎはじめた時期なのかもしれません。更年期のメンタル不調で詳しく扱っています。

この四つは、きれいに一つだけ当てはまるとは限りません。PMDDと月経前増悪が重なっている方も、生理前の不調と生理中の痛みの両方を抱えている方もいます。だからこそ、どれか一つに自分を当てはめて答えを出すことよりも、経過を持って受診し、医師と一緒に確かめることに意味があります。

この分かれ道のどこにいるかを見分ける最大の手がかりは、症状が出た日と月経の日付の記録です。記憶だけで振り返ると、いちばん重かった生理直前の印象に引きずられて、始まりの時期や生理後の残り方があいまいになりがちです。付け方の実際は仕事との両立と症状日誌を扱った記事に譲ります。

毎日きちんとつけなくても構いません。「いつ始まったか」と「生理が来てどうなったか」——この2点だけでも書き留めてあれば、診察での見分けはずっと確かになります。

生理中の「消えたい」という気持ちについて

生理前に「消えたい」「死にたい」という気持ちが繰り返し現れることは、PMDDでは珍しくありません。そして典型的な経過では、その気持ちは月経が始まると数日で弱まっていきます。

周期で説明がつくことと、つらさが軽いことは別です。「生理が来れば楽になる」と頭で分かっていても、その渦中にいる時間のつらさは本物ですし、毎月それを繰り返すこと自体が人を深く消耗させます。生理前に限って出る希死念慮は、「生理前だから」で片づけてよいものではなく、治療の対象になります。

消えたい気持ちが生理になっても続き、生理が終わっても引かないなら、それは周期だけでは説明できない何かがある、という大事な手がかりです。もともとの不調の月経前増悪かもしれません。生理が始まってから新しく出てきた場合は、うつ病そのものなど、周期とは別の理由が背景にあるのかもしれません。典型から外れているから気のせいなのではなく、典型から外れていること自体が、受診して背景を確かめる十分な理由になります。

周期のある不調には、特有の難しさがあります。生理が終わって楽になった自分が、生理前のあの気持ちを「大げさだった」と打ち消してしまうことです。楽になった時期の自分から見ると、数日前の絶望が現実味を失って見える。そうして毎月なかったことにされてきた気持ちは、記録に残しておくことで、はじめて診察の場に持ち込めるようになります。言えない事情があるときに無理に言葉にする必要はありません。その事情のほうをご相談ください。

死にたい気持ちが強く迫っていて、自分を抑えられそうにないときは、周期の見きわめはあとで構いません。通院中の方は主治医に連絡してください。急を要するときは救急(119番)です。そこまで切迫していない場合に受診を考える目安は、PMDDとは?PMSとの違いの「早めに相談した方がよいサイン」にまとまっています。

当院での実際

当院では、月経のある方について、初診前のWEB問診で月経周期と月経前の症状の変化をうかがい、必要に応じて診察で掘り下げてお聞きしています。この記事で並べた「いつ始まり、生理が来てどうなるか」の記録があれば、問診や診察の材料になります。

また、低用量ピルなど婦人科的な治療が適していると判断したときは、婦人科の受診をおすすめしています。受診先はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

まとめ

月経が始まったあとにどうなるかが、いちばん大きな分かれ道です。数日で軽くなるのか、もとの不調が残るのか、痛みが中心なのか、周期と関係なく続いているのか——どの形であっても、毎月くり返されるつらさは治療の相談ができるものです。「消えたい」という気持ちが繰り返し現れること自体も、受診の十分な理由です。「いつ始まったか」と「生理が来てどうなったか」を1〜2周期分だけでも書き留めて受診すると、この分かれ道を確かめる大きな助けになります。

そのほか近いところにあるもの ── PMS/PMDDで仕事がつらい 生理前の不調と仕事を両立させる工夫

よくある質問

生理中に死にたい気持ちが出ます。PMDDでしょうか。

PMDDの典型的な経過では、消えたい・死にたいという気持ちは生理前に強まり、月経が始まると数日で和らぎます。生理のあいだも続き、生理が終わっても引かない場合は、うつ病などもともとの不調が月経前に悪化する月経前増悪(PME)など、周期だけでは説明できない不調が考えられます。生理が始まってから新しく出てきた場合は、周期とは別の理由が背景にあることも考えます。どちらであっても、そうした気持ちが繰り返し出ること自体が受診の十分な理由です。気持ちが強く迫っていて抑えられそうにないときは、通院中の方は主治医に、急を要するときは救急(119番)に連絡してください。

生理前の頭痛は、いつごろから始まりますか。

生理の数日前から10日ほど前に始まり、月経が来ると引いていく頭痛は、PMS/PMDDに伴う体の症状としてよく知られています。一方、月経が始まってからの腹痛や腰痛が中心の場合は月経困難症を、月経の始まるころに強まる頭痛では月経に関連した片頭痛を考えることもあります。いつ始まり、いつ引くかという時期が、見分けの大きな手がかりになります。

排卵日のころから調子が崩れます。早すぎませんか。

典型的には生理前の数日から10日ほどに症状が集中しますが、排卵のあとから月経までの2週間近く不調が続く方もいます。始まりが早いからといって、PMS/PMDDではないとは言えません。症状が出た日と月経の日付を記録して受診すると、始まりの時期や続き方を医師と一緒に確かめることができます。

生理が終わっても落ち込みが残ります。PMDDではないのでしょうか。

PMDDだけであれば、月経が終わったあとの時期(卵胞期の後半)は症状がほぼ消える時期です。この時期にも落ち込みや不安が続くなら、もともとのうつ病や不安症が月経前に悪化する月経前増悪(PME)や、更年期をはじめ周期以外の理由を考える必要があります。月経後も残る不調は、そのままにせず相談してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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